生活困窮者支援・過剰繁殖・多頭飼育の課題と取り組み

保護活動の広がりから、都市部を中心に「殺処分ゼロ」が達成されつつある日本。保護団体・ボランティア・行政など、本当に多くの方々のたゆまぬ努力で殺処分数は年々減少し、令和元年度は32,743頭。10年間で約8分の1まで減少しました。 一方で、シェルターは、多くの保護犬猫で溢れています。 また、様々な事情で生活が困窮している方が、飼育しているペットを意図せず増やしてしまい、多頭飼育に陥ったり、公衆衛生上の問題となることも多くあります。社会福祉の観点からも、ペットを飼育していることで、支援を必要としている人に支援が届けられないという問題も発生しています。

人と動物の共生センターでは、野良猫の過剰繁殖、多頭飼育崩壊を未然に防ぐべく、社会福祉団体、保健所、猫に関わるNPO・ボランティア等と共に、猫問題に関する対話の場を設け、協働による社会課題解決への活動に取り組んでいます。

多頭飼育崩壊の背景にある、障害と生活困窮

多頭飼育崩壊の現場は、ゴミ屋敷でもあることがしばしばです。動物も問題だけでなく、自分自身の生活を維持できていない問題が存在します。

背景には、飼い主自身の障害や孤立が存在があります。十分に仕事に就けず、経済的に困窮すれば、適正飼育のための費用を賄えません。社会的な孤立は、周囲からの支援や助言を隔絶します。つながりが乏しいことで、余計に動物に安息を求め、動物を集めてしまうこともあります。

多頭飼育崩壊の本当の解決には、猫だけではなく、人の生活の立て直しや、人の孤独に寄り添う支援が不可欠です。人を支えなければ、動物を適切に飼育できる環境は作れません。

動物相談ホットライン

2022年より、『動物相談ホットライン』を開設し、社会福祉関係者と連携した支援を実施してきました。ホットラインでは、社会福祉関係事業所や生活困窮者本人から相談を受けつけ、それぞれの問題解決のための支援を行っています。

過剰繁殖対策 意見交換会

野外で繁殖する猫、多頭飼育のの問題は、猫の問題として表面化しているものの、猫に関わる人々の生きづらさや孤独を反映した問題である場合が多くを占めます。

孤独から猫にエサを与え、避妊去勢をすべきという助言をする人も近くにいないという例や、生活困窮があり避妊去勢手術ができず増やしてしまいさらに生活が困窮する例などがあります。

そのため、猫に関わる行政・NPO・ボランティアだけでは解決に導くことができない場合も少なくありません。社会福祉の支援者と動物に関わる支援者が連携して課題解決に取り組むことが重要です。

当団体では、地域包括支援センター等地域福祉に関係する支援者、動物行政を管轄する保健所、猫の避妊去勢を専門に行う獣医師、猫に関するボランティア活動に関心のある方、NPO の職員など立場の違う方々が、連携し合うための意見交換会を実施しています。

全国ロードキル数調査

2019年、全国の路上で死亡し、回収された猫の遺体数は、28万9572頭(推計)。殺処分数の10倍に上ります。

人と動物が共生するまちづくりにおいては、殺処分数という成果指標だけでなく、野外で死亡する猫の遺体回収数も重要な成果指標になってきます。

当団体では、各地方行政が把握している野外で死亡した猫の遺体回収数や、各行政のボランティア活動に対する支援状況などに関するアンケート調査を行い、猫の個体数動態に与える要因について研究し発表しています。

全国ロードキル調査詳細

全国猫のロードキル調査(2021)『28万9,572頭』が路上で死亡(推計)

認定NPO法人 人と動物の共生センター(所在地:岐阜県/以下、同団体)は、野外で死亡した猫の数に関する全国調査を実施(2020年8月〜9月)。同団体の理事長・奥田順之獣…

学会発表等

2021年
  • 野生動物と社会学会 第26回大会 『猫の全国ロードキル調査結果と野外繁殖猫削減への一考察』