12月2日に動物の福祉と倫理第3回目のセミナーを開催しました。
参加者は34名で第3回の今回は『環境エンリッチメントと動物の幸せ~動物が主体性と潜在能力を発揮するために~』というテーマで、午前中は上野先生からの講義を聞き、午後からは約5人ずつのグループでのワークショップを行いました。

講義で、今から30年から50年前は生き物は次世代を生み出すために個々が存在し、繁殖がうまくいけば幸福である、という生物学的幸福から、近年では不安や恐怖がなく、主体的に生きることが幸福であるという考え方に変わってきた。動物は痛みや欲求を持った存在で、身体的健全性と心理的健全性に配慮する必要がある。心理的健全性に配慮された動物は病気にかかりにくい、様々なストレスに対する耐性が高いといった状態を保つことができるという科学的情報を提供いただきました。また、動物に配慮すべき「5つの自由」というのが
『身体的自由』
1. 飢え、渇き、栄養不良からの自由
2. 痛み、傷害、病気からの自由
3. 不快感からの自由
『心理的自由』
4. 恐怖と苦痛からの自由
5. 正常な行動を表現する自由

であるということを示していただき、死なないからいい、ではなく動物がどう感じるかが重要だということを改めて認識しました。
また、環境エンリッチメントとは、行動生物学をもとに、動物の生活環境における心理的健全性に配慮するための積極的な工夫です。動物の行動学的な選択肢を増やし、種がもつ適切な行動(人にとって都合がいい行動ではない)を引き出し、その結果として動物福祉を高めることを目的としたものだと説明いただきました。エンリッチメントを施す環境には以下の5つがあると示していただきました。
1. 物理的環境(生活環境の大きさや空間利用)
2. 採食環境(メニューの選択肢、獲得するための作業)
3. 社会環境(同種、異種の個体との関係)
4. 感覚環境(五感を刺激し、注意や関心などの選択行動)
5. 認知環境(頭を使う作業で認知能力を発揮させる)

こういった環境に配慮された生活をすると脳の働きが向上し、学習意欲、記憶能力、活動性が高まり、内分泌系、免疫系も活性化されるとの研究結果があることを示されました。実際の例として水を張ったプールにマウスを入れると、エンリッチメントに配慮されていないマウスに比べ、エンリッチメントに配慮されているマウスは出口を探す行動を長く続ける(生きのびるために努力を続けられる)という研究結果をご紹介いただきました。心理的健全性を保つためにエンリッチメントされることで、様々な行動の発現がみられ、成功体験を積むことでポジティブな感情が生まれ、心理的な強靭性、持続性などが育まれるということを学びました。

前半の講義の感想と質問を参加者の皆様から頂き、午後からいくつかの質問に上野先生から回答をいただいたのちに、後半のワークショップに移りました。
ワークショップでは、「外猫と家猫どっちが幸せ?」というテーマでグループごとにデスカッションをしていただきました。外猫の生息している環境設定(一宮市程の住宅街でエサやりのボランティアとの関りはないなど)と家猫の飼われている環境設定を最初に行い、前半にご説明いただいた、「5つの自由」の項目について外猫家猫それぞれどちらがどれ程の5つの自由を実現している(高福祉)と思うか話し合いました。そのうち「飢え・渇き」「病気・痛み」「不快な環境」については家猫のほうが満たされ配慮されているのではという意見が多く、「恐れ・抑圧」については家猫のほうが配慮されるとはいえ、人との関りが近くなることでかえって不自由になることもあるのではという意見もありました。
「正常な行動の表現」は排泄、繁殖の抑制をされることが少ない外猫のほうが自由であるとの意見がありました。

一つ目のワークでは「福祉に配慮する」ということを考えていただき、2つ目のワークでは「保護猫を不幸にしない保護活動のためのエンリッチメント」についてグループごとに6畳一間で大人の猫30匹(内人馴れ14匹、警戒14匹、15歳慢性腎不全2匹)の猫の多頭飼育崩壊が起こり、避妊去勢は協力獣医師が行ったが、シェルターはいっぱいで引き出せないためその部屋を拠点に月1頭ずつの譲渡していくしかない、という状況でどのように猫たちが幸せに暮らせる空間を実現しますか?というエンリッチメントについて話し合ってもらいました。各グループでそれぞれ何とか色んな工夫をして猫の習性、特性を考えた空間づくりを設計していましたが、15歳慢性腎不全の猫については現実に週3,4回の皮下補液が必要となる設定のため、安楽殺を考える必要があるのではという意見が出たグループもありました。

今回のテーマである「環境エンリッチメント」とはエンリッチメント(工夫)をすることを目的としてしまうのではなく、それが動物のためになっているか、何のためにそのエンリッチメントを行うのか、見失わないようにすることが大切だと感じました。生活環境が著しく狭くてもポジティブな行動を起こす工夫がされていれば、それでいいのでしょうか。広くて走り回れる空間があれば、工夫は必要ないのでしょうか。動物の福祉と倫理とはどういうことなのか常に考えながら動物と関わっていけたらと思います。
また、参加者からの感想に、ポジティブな経験、心の在りようが大切なのは人も動物も同じだと思ったという感想が多くありました。心の在りようの変化をご自身やご家族の生活をエンリッチメントして体感してみてはいかがでしょうか。

次回は第4回『生きていることは、すなわち幸せなのか?』~心身の健全性と生物学的幸福論、客観的判断と主観的判断の間で~というテーマで開催いたします。動物の福祉と倫理セミナー全4回の最後の回となります。セミナー終了後は懇親会も開催いたします。多くの皆様のご参加をお待ちしております。