ペット産業が変わっていくために、必要とされるのは情報です。ペット産業内部の方も、産業を変えていかなければならないという、意識を強く持っています。それを後押ししていくためには、多くの人が、ペット産業に対して、建設的な対話、建設的な提言の姿勢を持つことが必要です。本書は、その視点を提供することを一つの狙いとして、執筆しています。

本書の内容や狙いを表したものとして、「はじめに」にまとめておりますので、その内容をご紹介します。

以下、ペット産業社会的責任(CSR)白書より抜粋

はじめに

 近年、数多くの自治体が「殺処分ゼロ」を達成し、「殺処分ゼロ」運動が盛り上がりを見せている。「殺処分ゼロ」は、動物愛護団体をはじめ、犬猫の問題に関わる人々にとって、長年の目標であり、その達成は、非常に意義深いものである。

 一方で、「殺処分ゼロ」を達成したから課題が解決されるわけではない。目指すべき社会像は、飼育者・非飼育者・動物、三者の福祉に配慮された、人と動物が共生する地域社会を実現することであり、殺処分をしないことはその一部であると私は考えている。これまでは、殺処分と言う緊急的な課題への対応が中心であったが、「殺処分ゼロ」が達成されつつある今、より広い視野に立ち、課題に向き合っていかなければならない。

 殺処分に直接繋がらない多くの課題は、改善の傾向にあるものの未解決のままである。野良猫野良犬の過剰繁殖はまだまだ収束しておらず、殺処分数の数倍、地域によっては数十倍のロードキルが発生しているとみられる。犬の攻撃行動による咬傷事故は、報告されているだけでも毎年4000件を超え、家族への攻撃行動等の問題行動の相談は数えきれない。超高齢化に伴い、高齢の飼育者が入院や病気により飼えなくなる事態は発生し続け、保健所・動物愛護センターへの収容の3割を超える。そして、ブリーダーや引き取り屋による劣悪な飼育環境の問題、ペットショップでの展示方法の問題、繁殖引退犬の処遇の問題、ペットショップによる飼い主教育の問題など、ペット産業に関する課題も依然として横たわっている。これらの課題解決に多大な影響力と、重大な責任を持つ主体、それがペット産業(ペット関連企業)である。

 本書のテーマは、ペット産業、とりわけ生体販売に関連した企業の社会的責任である。企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)はCSRと略され、あらゆる分野の企業経営に必要不可欠な概念として定着している。一方、ペット産業、特に生体販売の分野では、まだまだCSRという概念が浸透し、経営に統合される段階に至っているとは言い難い。一般社会の認識としても、SNSやニュースサイトには、ペットショップやブリーダーに向けられた非難や、それらの業者の廃業を望む声にあふれているが、それらの課題がペット産業のCSRという文脈の中で論じられることはほとんどない。

 本書の目的は、ペット産業のCSRという概念を普及し、企業による健全な自浄作用を促進することにより、ペット産業の課題を解決し、人と動物が共生する地域社会を実現することである。本書を届けたい相手は、第一にペット関連企業(ペットショップ・ブリーダー・トリミングサロン・動物病院・トレーニングスクール他)の経営者・従事者、第二にペットショップがテナントで入る大手小売業(ショッピングモール・ホームセンター)の経営者・CSR担当者・ペット事業担当者である。そして、CSRの推進は、企業の努力だけでなく、社会からの、監視の目も必要不可欠である。届けたい相手の第三に動物愛護/動物福祉の活動に携わるNPO/NGOや学者等の専門家、第四に消費者である飼い主を挙げたい。これらの人々がペット産業のCSRという概念を理解する上で、本書が役に立てるのであれば幸いである。