平成30年に動物愛護管理法が改正される流れを受けて、動物愛護管理法改正に関する議論が活発化しています。ペット産業に関する規制を巡っては、日齢規制の56日への引き上げ時期の問題、飼育施設数値基準、マイクロチップの義務化などの直接規制的手法に関する話題が中心となっています。

この、直接規制的手法、果たして本当に実施されるのでしょうか?逆に実施されない理由は何でしょうか?

環境問題に目を向けると、直接規制的手法の課題が見えてきます。それは、規制を受ける企業との合意形成がなかなか進まないことです。そりゃそうですよね。規制が厳しくなればコストが増すので、利益が減ります。科学的根拠が示しにくい問題では、さらに合意形成が進まなかったり、科学的根拠がないことを理由に規制の意味はないというロジックになってしまったりします。

日齢規制に関連した早期離乳の問題や、飼育施設の数値基準に関連した動物福祉水準の問題は、環境問題で見られるように、強い法規制をかけようとしても十分な科学的根拠を準備することは難しく、合意を形成しにくい問題となっています。

<白書本文より引用>​

 ジェームス・サーペル博士による犬の行動に関する研究では、ブリーダーから家庭に迎える時期について、7-9週で迎えた犬は、他の時期に迎えた犬と比べて、最も問題行動が少なく、4‐6週で迎えた犬は、最も多くの問題行動が発生したことが報告されている[1]。2012年の改正時には、日本国内での調査に基づく研究結果はなかったため、次回法改正に向けて、環境省が主導し、麻布大学の菊水健文教授らの研究チームが大規模な調査を進めている段階である。実際の引き上げ時期の検討については、科学的根拠のみを検討材料にするのではなく、犬猫等販売業者の業務の実態、親から引き離す理想的な時期についての社会一般への定着の度合い、犬や猫の生年月日を証明させるための担保措置の充実の状況等を勘案することとなっている。

 

 販売日齢規制のような直接的規制を法律に導入する場合、犬猫等販売業者の業務の実態や、生年月日を証明させるための担保措置など、規制を受ける業者側の取り組み状況が重要な検討材料となる。2012年の改正時、45日での日齢規制については、犬猫の繁殖に関連する複数の団体が、既に自主的に45日で自主規制を行っていたことが、合意形成を後押しした[2]

 直接規制的手法を適用する法改正では、現実に即さない規制はかけにくい。56日に引き上げる時期については、次回改正でどのような結論になるか分からないが、今後業界の自主的な取り組みにより、多くのブリーダーやペットショップが56日齢以上の動物のみ売買するようになれば、合意形成が進みやすくなるものと考えられる。ペット業界は、法律で規制される基準に合わせていくのではなく、自主的に基準についての議論を深めて、業界自主基準を作り、より適切な水準に高めていくことが理想である。

[1] 環境省、「中央環境審議会動物愛護部会 動物愛護管理のあり方検討小委員会 (第5回)議事録」、http://www.env.go.jp/council/14animal/y143-05a.html、2017年8月25日アクセス

[2] 環境省、「環境省主催シンポジウム 動物の愛護と管理と科学の関わり-議事録」、http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/symposium/files/170226/170226_gijiroku.pdf、2017年8月25日アクセス

<引用ここまで>

一方で、環境問題への取り組みを加速させたのが、情報的手法です。

情報的手法とは、社会(行政)が産業側に、事業や製品・サービスに関する環境情報の開示を義務付ける政策手法の事を指します。同業他社との比較を可能とし、企業の説明責任に訴えることで、自発的な汚染の削減を期待するものです。法的拘束力が弱く、目標達成は不確実となるものの、導入や合意形成が容易であるという利点を持ちます。

動物愛護管理法の改正では、直接規制的手法に関する話題が中心となっていますが、合意形成が難しい側面があり、それだけでは合意できなかった時に、何も進まなくなってしまいます。直接規制的手法に加えて、検討すべきは、この情報的手法です。

例えば、動物の販売時に、繁殖したブリーダーの動物取扱業表記の掲示を義務付けるなどの方法は効果を発揮するのではないかと考えられます。

現在、ペットショップで動物を購入する際に、どのような環境で飼育されていた動物か確認する術はありません。それによって、劣悪な環境下で繁殖された犬猫がペットショップに並んでいても消費者は気付かない状況となります。販売時に繁殖者の動物取扱業表記掲示を義務化することで、消費者や動物愛護団体はブリーダーの動物取扱業表記を確認し、直接飼育環境を確認することが容易になります。その中で不適切な飼育管理状況が確認されるようなら、ペットショップに対しその事実を報告し、飼育状況の改善を求めていくことができるでしょう。そうした事実が確認されたことをSNS等で拡散した場合、企業イメージを損なうこととなりますので、企業も寄せられた情報を無下にすることはできないでしょう。むしろ改善の提案として受け取られるはずです。

直接規制的手法も当然ながら検討されるべきですし、法律にならなかったとしても、業界基準を定めて公開し、各企業がそれに即しているかどうか情報公開していくべきですし、基準についても社会とコミュニケーションを図っていくべきです。

直接規制的手法に加えて、より合意形成のしやすい​情報的手法を検討することで、自主的な取り組みを加速させることにつながり、それが、直接規制的手法の合意にも役立つ土台を作ることになるでしょう。情報的手法は動物愛護管理法改正で検討されるべき項目と言えるでしょう。