ペットと災害をめぐっては、災害の度にペットとの同行避難の課題が取り沙汰されています。指定避難所では、アレルギーや吠えや臭いの問題などもあり、必ずしも避難所での同伴避難が可能なわけではありません。

一方で、ペットを連れた避難を諦めた方・ためらった方が、洪水により被災し、命の危険に曝される事態も報告されています。ペットがいても誰もが安心して避難できる社会でなければ、人も動物も、その命を守ることはできません。

当法人では、ペットがいても安心して避難できる社会、飼っていない人も飼っている人も安心して避難できる社会を目指し、ペットの防災活動に取り組んでいます。

動物避難所開設訓練の様子

ペット防災の課題

これまでの災害では、「ペットがいるから」と、危険な自宅に留まり被災し命を落とす事例が少なからず報告されています。2019年の台風19号では、多摩川沿いのマンションの1階に住む方が、氾濫により、4匹の猫と一緒に亡くなっています。猫と一緒に避難することができれば、防げた災害です。

このような問題が発生する背景として、避難所への避難について、必ずしもペット同伴可ではないという課題が挙げられます。またニュースでも『ペット同伴避難を断られた』という記事が散見され、ペットと避難しても断られるに違いないと感じて、避難をしない判断をしてしまうということもあります。

能登半島地震では、自宅が倒壊した被災者の方が、自宅横の納屋で生活していたところ、火災が発生する二次災害により亡くなっています。ペットを連れて避難できないという気持ちが、納屋で生活するという判断につながっていると考えられます。

ペットとの避難に関するこれまでの経緯

東日本大震災による変化

東日本大震災では、福島第一原発の事故に伴う警戒区域からの避難において、ペットを家に置いて避難したことで、その後、警戒区域に帰宅できない状態となり、結果として多くのペットが餓死したり、外に出れた子たちも行方不明になってしまいました。

東日本大震災では、ペットを残して避難するということのリスクが浮き彫りになり、『同行避難の原則』が啓発される契機となりました。

熊本地震での変化

2016年に発生した熊本地震の際は、『同行避難の原則』が一定程度浸透しており、避難所にもペットを連れて避難する人が相次ぎました。しかし、ペットを連れた避難について、避難所の方は準備ができておらず、一部の避難所では、ペット連れの避難を拒否されたり、渡り廊下などの軒下のみが提供されるといった状態となりました。また、ペット連れ場合、車中泊で避難される被災者の方が多かったともいわれています。

このような経緯を受けて、同行避難と同伴避難の違いについて、啓発されるようになりました。

同行避難と同伴避難の違い

同行避難

同行避難とは、ペットをつれた移動を伴う避難行動をとることを指します。同行避難は避難先を指定する用語ではなく、指定避難所への避難でも、友人知人宅への避難でも、宿泊施設への避難でも、ペットを連れて危険な場所から安全な場所に移動することを同行避難と言います。

同行避難という言葉が普及した段階では、多くの方が「ペットを連れて避難所に行くこと」あるいは「ペットを連れて避難所で避難生活を送ること」であると勘違いされていました。そのため、「同行避難は原則なのに、避難所に入れないなんておかしい」という意見も散見されました。

ペットと共に安全な場所に移動することと、避難所でペットと一緒に過ごせることは全く別問題です。この理解を広めることが急務です。

同伴避難

同伴避難とは、避難所の敷地内でペットを飼養管理する状態のことを指します。「避難所でペットと一緒に過ごす」というのは、同伴避難を意味しています。

ただし、同伴避難についても、必ずしも飼い主と一緒の部屋で過ごせるわけではありません。むしろ、東日本大震災では、ペットはペットの居場所、人は人の居場所という形で分けられる形が一般的でした。飼い主と同室で避難できる避難所も少しずつ増えてきていますが、一部に限定されています。

「同伴避難可能な避難所」だからといって、一緒に過ごせるわけじゃないかもしれないという理解を拡げていくことも必要です。

ペット防災の課題を解決するために

このようなペット防災の課題を解決された状態とは、『ペットがいても、ペットがいなくても、災害時に命と生活を守ることができる』状態と言えます。災害が起きても、命を守り、生活を守ることができる、レジリエンスの高い家庭・地域・社会を作っていくことが理想です。

特にペットの飼い主の課題は、初期の避難や、避難生活において、命と生活を守ることです。それができるようになるためには、まずは飼い主がしっかりと備えること、そして、地域の事業者等が支援すること、行政による公的な支援の枠組みを構築することです。

①ペットの飼い主自身が、避難を計画し、避難の選択肢を増やす

ペットの飼い主は被災弱者です。なんの備えもなしに被災すれば、どこに避難できるのかもわからず、路頭に迷ってしまいます。

ペットの命を守れるのは飼い主だけ。飼い主が、平時から避難を計画し、避難の選択肢を増やしておくことができれば、命を守ることができるでしょう。避難の選択肢には、親類の家、友人知人の家、車中泊、宿泊施設、その他身を寄せることができる安全な場所が含まれます。

しかし、飼い主の中でも、いざという時の避難行動を計画している人は少数派です。これを多数派に変えていくことが必要です。

当団体では、飼い主への啓発を実現するために、ペット防災カレンダープロジェクトを2021年から実施しております。

②ペットと飼い主の避難の受け入れ可能な施設/啓発拠点を増やす

ペットの飼い主自身が備えを進めることが最も重要なことですが、それを実現させるためには、日常的にペット防災を意識できる地域づくりが必要です。ペットの飼い主は、トリミングサロンや、ペットホテル、動物病院を日常的に利用します。そのようなペット関連事業者が本業の傍らペット防災活動に取り組むということが必要です。

取り組み方の一つとしては、災害時にペットやペットと飼い主の避難を受け入れる「動物避難所」を開設することです。避難に困難を抱える飼い主への支援を行うことは、飼い主にとって価値の高い支援となるでしょう。当団体では、「全国動物避難所マップ」の運営に参画しており、全国の動物避難所のリスト化を行っております。

また、動物避難所の設置は、飼い主への啓発にも効果的です。動物避難所を設置する事業者は、ペット防災に意識の高い事業者です。そうした事業者のサービスを日々受ける飼い主に対して、「もしもの時は、ここは動物避難所になりますよ」と伝えるだけでも、飼い主に対して一定の啓発効果を上げることができます。

且つ、ペット防災カレンダーなどの広報媒体を利用することで、より効果的にペット防災の啓発を進めることができます。

動物避難所の先進事例として、岐阜県岐阜市にある当団体本部施設において、動物避難所の開設を行っています。

③行政の設置する指定避難所でのペット同伴の取り組みの推進

民間の取り組みもさることながら、行政の設置する指定避難所でペット同伴が可能になることも重要です。しかし、まだまだペット同伴可が一般的になっているわけではありません。また、ペット同伴可にすることで、動物アレルギーのある方や、障害のある方が避難所に身を寄せにくくなるという課題も指摘されています。

いくつかの自治体では、ペット同伴専用の避難所を設置する動きがあります。当団体の本部の近隣では、愛知県犬山市が、市内の3か所のコミュニティセンター等をペット同伴専用の避難所として設置する方針を打ち出し、実際に訓練も行われています。また、愛知県尾張旭市では、今後ペット同伴専用の避難所の設置を検討するために、ペット同伴避難の実証実験を実施(2024年2月)しています。尾張旭市の取り組みについては、当団体でも支援をさせていただいております。

当団体では、行政によるペット同伴専用避難所の設置に関するコンサルティングや、ペット防災にかかわる講師派遣を実施しています。これらの事業を通じて、行政による指定避難所でのペット同伴の取り組みを推進していきます。

近年、当団体が、ペット防災に関連するコンサルティングや講師派遣を行っている行政機関等は以下の通りです。

  • 愛知県(ペット防災フェスタへの講師派遣/2024年)
  • 愛知県尾張旭市(同伴避難所開設に関する実証実験/2024年)
  • 鳥取県智頭町(災害ボランティアセンター運営者研修/2024年)
  • 鳥取県日吉津村(地域づくり講演会/2024年)
  • 栃木県(動物愛護セミナーでのペット防災に関する講演/2023年)

ペット防災セミナーやペット同行訓練の企画・講師派遣

行政、自治会、自主防災会、飼い主組織、動物病院等で実施する、ペット防災セミナー・動物避難所開設訓練の企画及び講師派遣を行います。詳細は、下記ボタンよりご確認ください。

当法人によるペット防災活動一覧