ペット産業への変革を促すための「ペット産業CSR白書」

NPO法人人と動物の共生センターは、殺処分問題をはじめとして、人と動物が共に生活することで起こる社会的課題の解決に向けた活動を展開しています。その中でも、ペット産業、特に生体販売を取り巻く課題に対して、ペット産業の自主的な適正化を促すというアプローチ=ペット産業のCSRの推進に取り組んでいます。

当団体では、これまでに、ペット産業の社会的責任を考えるシンポジウムの開催、ペット産業に関する調査研究等の活動を行ってきました。そして今回、ペット産業のCSRに関する基礎的な情報を発信すると同時に、ペット産業に関わる利害関係者(ステークホルダー)との対話を深めていくきっかけづくりとして、ペット産業CSR白書を発行いたしました。
 
 
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ペット産業CSR白書発行の目的

ペット産業のCSRを推進し、より責任ある産業に変化していくために、今必要とされるのは情報であると考えています。ペット産業外部の方はもちろんのこと、ペット産業内部の方も、産業を変えていかなければならないという、危機感を強く持っています。これを後押ししていくためには、ペット産業内外の人々が、業界の課題や未来のあるべき姿について、建設的な対話、建設的な提言の姿勢を持つことが必要です。本書は、その視点を提供することを一つの狙いとして、執筆しています。

本書の内容や狙いを表したものとして、「はじめに」にまとめておりますので、その内容をご紹介します。

ペット産業CSR白書「はじめに」

 近年、数多くの自治体が「殺処分ゼロ」を達成し、「殺処分ゼロ」運動が盛り上がりを見せている。「殺処分ゼロ」は、動物愛護団体をはじめ、犬猫の問題に関わる人々にとって、長年の目標であり、その達成は、非常に意義深いものである。

一方で、「殺処分ゼロ」を達成したから課題が解決されるわけではない。目指すべき社会像は、飼育者・非飼育者・動物、三者の福祉に配慮された、人と動物が共生する地域社会を実現することであり、殺処分をしないことはその一部であると私は考えている。これまでは、殺処分と言う緊急的な課題への対応が中心であったが、「殺処分ゼロ」が達成されつつある今、より広い視野に立ち、課題に向き合っていかなければならない。

殺処分に直接繋がらない多くの課題は、改善の傾向にあるものの未解決のままである。野良猫野良犬の過剰繁殖はまだまだ収束しておらず、殺処分数の数倍、地域によっては数十倍のロードキルが発生しているとみられる。犬の攻撃行動による咬傷事故は、報告されているだけでも毎年4000件を超え、家族への攻撃行動等の問題行動の相談は数えきれない。超高齢化に伴い、高齢の飼育者が入院や病気により飼えなくなる事態は発生し続け、保健所・動物愛護センターへの収容の3割を超える。そして、ブリーダーや引き取り屋による劣悪な飼育環境の問題、ペットショップでの展示方法の問題、繁殖引退犬の処遇の問題、ペットショップによる飼い主教育の問題など、ペット産業に関する課題も依然として横たわっている。これらの課題解決に多大な影響力と、重大な責任を持つ主体、それがペット産業(ペット関連企業)である。

本書のテーマは、ペット産業、とりわけ生体販売に関連した企業の社会的責任である。企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)はCSRと略され、あらゆる分野の企業経営に必要不可欠な概念として定着している。一方、ペット産業、特に生体販売の分野では、まだまだCSRという概念が浸透し、経営に統合される段階に至っているとは言い難い。一般社会の認識としても、SNSやニュースサイトには、ペットショップやブリーダーに向けられた非難や、それらの業者の廃業を望む声にあふれているが、それらの課題がペット産業のCSRという文脈の中で論じられることはほとんどない。

本書の目的は、ペット産業のCSRという概念を普及し、企業による健全な自浄作用を促進することにより、ペット産業の課題を解決し、人と動物が共生する地域社会を実現することである。本書を届けたい相手は、第一にペット関連企業(ペットショップ・ブリーダー・トリミングサロン・動物病院・トレーニングスクール他)の経営者・従事者、第二にペットショップがテナントで入る大手小売業(ショッピングモール・ホームセンター)の経営者・CSR担当者・ペット事業担当者である。そして、CSRの推進は、企業の努力だけでなく、社会からの、監視の目も必要不可欠である。届けたい相手の第三に動物愛護/動物福祉の活動に携わるNPO/NGOや学者等の専門家、第四に消費者である飼い主を挙げたい。これらの人々がペット産業のCSRという概念を理解する上で、本書が役に立てるのであれば幸いである。

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