「動物愛護のために財産を寄付したい」という方が増えています。特に近年、遺言書を使って亡くなった後に財産をNPOに託す「遺贈寄付」が広まってきました。

当法人にも先日、相続のサポートを行う専門機関を通じて不動産の遺贈寄付の打診がありました。「ありがたいお話だ」と思いながら登記簿を取り寄せて調査を進めたところ、受け取るどころか受け取ったら組織運営を圧迫しかねない複合的な問題が次々と発覚しました。

登記の読み方や相続の知識がなければ、そのままサインしていたかもしれません。同じ轍を踏むNPOが出ないよう、今回の経験を整理してお伝えします。


ワナ1|市街化調整区域の土地は「売れない土地」

不動産の遺贈寄付で最初に確認すべきは都市計画法上の用途地域です。

土地には「市街化区域」と「市街化調整区域」があります。市街化調整区域は原則として建物の建築が制限されており、一般の買い手がつきません。

今回の打診にあった土地のひとつが市街化調整区域と確認された時点で、その土地の市場価値はほぼゼロになりました。売れない土地は資産ではなく、固定資産税を払い続けるだけの「負動産」です。

確認方法: 市区町村の都市計画課に電話するか、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で確認できます。登記簿には記載がないので要注意。


ワナ2|解体費用が土地の価値を上回る

古い建物が建っている土地を更地にして売ろうとすると、解体費用がかかります。木造住宅の解体費用の相場は延床面積あたり3〜6万円。古い建物や附属建物が複数ある場合はさらに増えます。

今回の物件には主屋のほかに複数の附属建物があり、合計すると延床100㎡を超える規模でした。試算した解体費用は数百万円規模に上ります。

一方で市街化調整区域の土地価値はほぼゼロ。「解体費用 > 土地価値」という逆転現象が起きており、受け取るだけでマイナスになります。

更地にして売れる土地であっても、解体費用を差し引いた「実質手取り」を必ず計算してください。


ワナ3|相続未了・未登記の建物は解体すらできない

土地の所有権を受け取っても、建物の所有者が別人の場合、勝手に解体することはできません。

今回の建物登記を確認すると、所有者は戦前の登記のまま長年にわたって相続手続きがされていませんでした。さらに現地には登記に記載のない未登記建物も存在していることが判明。

この状態では:

  • 建物の法的な所有者が誰なのか不明
  • 解体するには相続人全員の同意が必要
  • 相続人の調査だけで司法書士費用がかかる
  • 相続人が行方不明なら家庭裁判所への申立が必要

受け取った後も身動きが取れない「詰み状態」になります。

確認方法: 建物の登記簿(建物全部事項証明書)を取得し、所有者の登記年月日を確認する。古い年号であれば要注意。


ワナ4|みなし譲渡所得税の負担関係を誤解している

法人(NPO)が不動産の遺贈を受ける場合、所得税法59条によりみなし譲渡所得税が発生します。不動産を「時価で売ったとみなして」課税されるものです。

重要なのは誰が税金を払うかです。

特定遺贈の場合、みなし譲渡所得税は被相続人(遺言者)の所得税として課税されます。相続人がいない場合は相続財産清算人が準確定申告を行い、相続財産の中から納税します。特定受遺者であるNPOには納税義務はありません。

ところが今回届いた書類には、譲渡所得課税が発生した場合にその税額と申告費用をNPOが負担するという趣旨の条件が記載されていました。

特定受遺者のNPOに対して税務当局が課税することはなく、法的にはNPOに請求できる根拠がありません。遺贈に関わる税務は専門性が高く、関係者の間で認識がずれることがあります。書類にサインする前に必ず税理士に確認してください。


ワナ5|「専門家が作った書類」を疑わない

今回、受入確認書には次のような条件が記載されていました。

  • 「相続発生時に、特段の事情のない限り、遺贈の放棄はしないこと」

遺贈寄付の手続きでは、不動産の詳細な状況確認や税務の整理が追いつかないまま書類が作成されるケースがあります。遺言執行を担う機関が関与していても、受取団体側で独自に内容を確認することが重要です。

サインする前に必ず自分で登記簿を取得し、以下を確認してください。


受け取る前のチェックリスト

確認項目確認方法
市街化調整区域かどうか市区町村都市計画課・不動産情報ライブラリ
土地の実勢価格近隣の公示地価・固定資産税評価額
解体費用の概算延床面積 × 4万円で概算
建物登記の所有者と登記年建物全部事項証明書
未登記建物の有無現地確認・固定資産税課税台帳
特定遺贈か包括遺贈か遺言書の内容確認
現預金の概算規模遺言執行機関への確認
収支がプラスになるか土地価値 − 解体費 − 税費用

土地価値から解体費用と税費用を引いた実質手取りがプラスであることが、受け取りの最低条件です。


まとめ

遺贈寄付は、支援者の方の深い思いが込められた大切な意思表示です。その思いを受け止めながらも、組織として持続可能な判断をすることが責任ある受取団体の姿勢だと考えています。

不動産の遺贈は現金と違い、受け取った瞬間から管理コストとリスクが発生します。今回のような案件では、受け取らないことが遺言者の善意を守ることにもなり得ます。

遺言執行を担う専門機関や弁護士から「ぜひ受け取ってください」と言われても、自分で登記を確認し、収支を計算し、条件を精査する。その一手間が、組織を守ることにつながります。


本記事は当法人が実際に経験した事例をもとに作成しています。個別の遺贈寄付の判断については、税理士・司法書士にご相談ください。