3月2日動物福祉と倫理第4回目のセミナーをZOOMによるオンラインで開催しました。参加者は20名で第4回の今回は「生きていることは、すなわち幸せなのか?~心身の健全性と生物学的幸福論、客観的判断と主観的判断の間で~」というテーマで、午前中は上野先生からの講義を聞き、午後からはZOOMで質問を受け付け、質問者がマイク越しに質問の補足をし、上野先生にご回答いただく形となりました。

【講義内容】
動物福祉とは一定の数値基準を決めることは不可能で、いずれにせよその状況下で出来る限り動物の心身の状態がより良いものになっているかを考えなくてはいけない、という内容で進められました。前回までに、動物は人と同じようにストレスを感じても乗り越えられる能力を培うことができ、心理的健全性(諦めない、ストレスに負けない心をもっているかなど)を養えているか考える必要がある存在だ、と示していただきました。
それをふまえて、幸福かどうかの判断はいくつか調べる方法があることを教えていただきました。1つ目は、動物がより良い方を自身で選択できる選択テスト(寝藁を敷いたほうと敷いていないほうなど)、2つ目は、チェックリストを用いた客観的判断(ケージの寸法、施設設備の充実性など)、3つ目は、目に見える様子での主観的判断(元気がよい、落ち着かないなど)で動物の状態を捉えることができるとのことでした。
主観的判断は人によって異なり、基準が不安定になる可能性があります。しかし、動物をよく観て共感することによる判断は一概に排除する必要はないとのお話がありました。動物に対して共感することは、動物を人と全く同じものとして考えることではないと感じました。例えば「震えている」という状態に対して「あの動物は震えているから寒いに違いない」という一辺倒な考え方ではなく、「今日は気温が低いから寒いからかもしれない、知らない人に恐怖を感じているのかもしれない、最近食欲がないから痛いところがあるのかもしれない」というように目の前で起こっていることについて可能性のあることを幅広く想像する、という表現が近いように思います。動物の置かれている状況によって、人の目の前で起きている状態が正常な反応なのか、異常な反応なのか、それらを推測するためには、私たちがもっともっと動物を深く知る必要があると思いました。

また、動物の生命を保つ終末医療、要介護などの治すことができない状況への対応として、安楽殺についても生物の幸福的観点から触れていただきました。安楽殺とは、人が人の判断によって動物の身体的、心理的苦痛の強度あるいは時間を最小限するために行う生命活動を停止させる処置でありますが、その判断基準が難しいことが課題です。全ての安楽殺の是非をチェックリストのように機械的に決めることはできませんが、処置の実施にあたっては、動物の状態を把握することはもちろんですが、飼育者の経済的事情などの周りの要素も十分考慮しなければなりません。動物の心身の苦痛が大きすぎることや、それ以降の十分な維持管理ができるかどうかなどの判断の正解はありませんが、その動物に関わる人全てが協議し、丁寧に合意しながら決めていくしかありません。安楽殺を一生懸命に考えた上で自身の決断を下すことは、少なくとも動物福祉の観点から言えば、見放すだとか、無責任だというような判断ではない、とのお話も伺いました。

【まとめ】
参加者の方からは野犬や野良猫をどのように考えるか、今後動物保護活動は動物福祉をどこまで満たしていけるのか、一般の飼い主への基準はつくれるのかなどの意見がありました。いただいたご意見は、皆さんが動物と関わっているからこそ悩まれている問題だと感じました。動物を迎えた後に環境の工夫をするのではなく、迎える前にその動物にとって必要な環境を整えることができるのかを考えてから、迎える。福祉に配慮するということはその動物の本来持っている可能性を知り、その心にまで配慮することであると思いました。このような学びを今この場だけのものではなく、より多くの人が触れる機会となるように、今後も人と動物の共生センターとして皆さんと学ぶ場を作り続けていきたいと思います。

【参加者の方の感想】
1年ほど前に岐阜で上野先生の安楽殺についての講義を受けてからずっと、自分自身に問いかけるように動物福祉について学んできました。安楽殺について、当時はまだ頭で理解できても心がついていけない状態でしたが、継続して「安楽殺とは」という問いかけを自らに課して勉強するうち、やっと心が追いついてきました。こちらの講義で継続して客観的に多角的に安楽殺について考える機会があり、とても良かったです。一人ではずっと抱え込んで、次に何かあって躓いたらもう保護活動はやめていたと思います。
安楽殺の問題というか、安楽殺を取り巻く問題と言った方がいいのか、最終的には人が決断を下すのだから安楽「殺」という言葉を使うのだという説明をすると過度に反応される方が多いのも現状です。私自身の心の経験を忘れずに、動物福祉の観点からの安楽殺については、これからも機会があれば発信していこうと考えています。
また機会があれば動物福祉の今後についてお話を聞かせていただきたいと思います。
(Fさん)

動物の心身の健全性を保持することまで飼い主さんのレベルが上がっていくよう微力ながら私も頑張って行こうと思います。ポジティブウェルフェアには、人間の福祉も同じく正解やゴールはなく、日々努力していくしかないと思っています。希望としては、もう少し動物愛護に関心のある獣医師が増えると良いと思いますし、核家族、独居高齢者の増える社会で飼い主に寄り添い安楽殺についてもそれぞれのケースによって対応してくださる獣医師がこれから必要になると思います。(Nさん)