今回ご紹介するのは、三重県在住のY.T.さん(60代女性)から寄せられたペット後見のご相談事例です。高齢のお母様が大切に育ててきた愛犬の将来を心配した娘さんが、少しずつ準備を進めていかれた記録をお伝えします。なお、ご本人・ご家族のプライバシー保護のため、お名前・年齢・地域・ペットに関する情報など、一部を変更・省略しております。
最初のご相談
Y.T.さんから最初にお問い合わせをいただいたのは、ある秋の夕方のことでした。「新聞でペット後見という仕組みを知りました。80代後半の母が犬を飼っているのですが……」という、少し言葉を選びながらの電話でした。
資料をお送りし、その後しばらく間があいてから、改めてメールでご連絡をくださいました。そのメッセージには、お母様とご家族をめぐる事情と、「もしものとき」への切実な思いが、丁寧につづられていました。
お母様と愛犬ムギのこと
Y.T.さんのお母様・S.M.さんは80代後半。現在は三重県内のご自宅で、愛犬のムギ(ポメラニアン系の小型ミックス犬・オス・8歳)とともに暮らしています。ムギはもともと、S.M.さんの知人が手放すことになった犬を引き取ったのがはじまりで、以来、二人三脚の生活が続いてきました。
S.M.さんは今も自炊をこなし、毎朝晩ムギの散歩を欠かしません。「ムギがいるから、毎日ちゃんと起きられる」——そんな言葉が、娘さんとの会話の中でよく出てくるそうです。ムギはS.M.さんにとって、生活の張り合いそのものでした。
ただ、ちょうどこの頃、かかりつけの動物病院での定期検診で気になる所見があり、しばらく経過観察をすることになっていました。「ムギが弱ってきたとき、お母さんが一人でどこまで対応できるか……」という不安が、娘さんたちの中でいっそう大きくなっていったようです。
家族それぞれの事情
Y.T.さんは車で30分ほどの距離に住んでおり、折を見て母親の様子を見に行っています。しかしご自身の生活もあり、常時そばにいることはできません。
もともとムギをS.M.さんが引き取る際、家族の間では「もし面倒を見られなくなっても、みんなは引き受けない」という取り決めをしていました。ムギはあくまで「お母さんの犬」として迎えた経緯があったからです。
Y.T.さん自身は犬が嫌いなわけではありませんが、夫が犬を苦手にしているうえ、親の介護や日々の暮らしで手一杯の状況です。妹たちも同様に、それぞれ理由があって引き受けることが難しいと言います。
S.M.さんはというと、「私に何かあったら、近所の犬友達が引き取ってくれるって言ってるから大丈夫」と口にするようになりました。娘さんたちとしては、その言葉を信じてあげたい気持ちはあるものの、「社交辞令かもしれない」「他の方に迷惑をかけたくない」という思いが拭えず、複雑な気持ちを抱えていたといいます。
個別相談の日
最初のご連絡から数か月後、Y.T.さんがセミナーに参加してくださり、その後、個別相談の場を設けることになりました。相談当日はS.M.さん本人と娘さん2人、そしてムギも一緒に事務所へいらっしゃいました。
ムギは初めての場所にもかかわらず、スタッフの顔をじっとのぞき込んでは尻尾を振っていました。ケージの出し入れにも慣れていて、食事も安定しており、かかりつけの動物病院にも定期的に通っています。年齢相応の落ち着きがあり、新しい環境にも無理なく馴染めそうなことが確認できました。
S.M.さんはその日、少し緊張した様子でムギを膝に乗せながら、スタッフの話に静かに耳を傾けていらっしゃいました。そして相談の終わり近くに、こうおっしゃいました。「ムギを誰かに託すことになったとしたら……一度でいいから、会いに行けたら嬉しいんですが」。
状況によっては難しい場合もあることを正直にお伝えしながら、できる限り希望に沿えるよう努める旨をお話しすると、S.M.さんの表情が少し和らいだように見えました。
費用への疑問、そして納得
個別相談の後、Y.T.さんからいくつかのご質問をいただきました。「入会金と手数料は、いつの時点でお支払いすればいいでしょうか」「口座引き落としの月会費は、いつから始まるのですか」といった、費用の流れに関する具体的なものでした。一つひとつ丁寧にご説明し、ご不安を解消していただきました。
Y.T.さんはこんなことも話してくださいました。「老犬ホームだと毎月3〜4万円かかるところもあると知って……ムギがあと何年生きるかわからないのに、毎月払い続けるのは正直不安でした。今回のように最初にまとめてお支払いする形の方が、私たちには安心できました」。
ご家族でよく話し合われた末、ペット後見のご契約を進めてくださることになりました。
契約締結、そしてその後
書類のやりとりを経て、翌年の初めに終生飼育費用が振り込まれ、正式なご契約が完了しました。ヒアリングシートや緊急保護計画書の内容もしっかりと確認・共有し、「万が一のとき」に向けた準備が整いました。
契約完了のご連絡をした際、Y.T.さんは「母もようやく少し安心したと思います。私たち娘も、これで一つ肩の荷が下りました」とおっしゃってくださいました。
その後、ムギの経過観察については動物病院から新しい食事内容をすすめられ、そちらに切り替えながら様子を見ているとのこと。S.M.さんは今日もムギと朝の散歩を楽しんでいると伺っています。
この事例を通して感じること
ペットと暮らすことで毎日に張り合いが生まれ、高齢になっても生き生きとした時間を過ごせている——S.M.さんとムギの関係はまさにそのようなものでした。
一方で、「自分がいなくなった後、この子はどうなるのか」という不安は、飼い主にとってとても切実なものです。それでもS.M.さんは、ムギのために準備をする決断をしてくれました。それは娘さんたちとの信頼関係があってこそ、できた決断だったと思います。
ペット後見は、ペットを「手放す」ための仕組みではありません。「最後まで責任をもって愛する」ために備えておく仕組みです。同じような状況でお悩みの方がいれば、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
※本記事は実際の相談事例をもとに、個人情報保護のためお名前・年齢・地域・ペットの情報など一部を変更・脚色したものです。


