
10月18日、「人と動物の共生大学」では、ライトアニマル代表・生物イラストレーターの河合晴義氏をお招きし、「生体展示?デジタル展示? 野生動物の“本当”を知るには」を開催しました。
■「ライトアニマル」とは?
河合さんは、水族館や図鑑のイラスト制作を行う生物イラストレーターであり、現在は北海道の水族館「AOAO SAPPORO」で展示ディレクターも務めておられます。
そんな河合さんが友人と共に開発したのが、デジタル動物展示システム「ライトアニマル」です。
「ライトアニマル」は、生きた動物を使わずにCGでリアルな等身大の動物を投影する仕組み。
VR・AR・3D映像などの技術を使い、まるで本物の動物が目の前にいるかのような臨場感を体験できます。
現在、ライトアニマルはカワスイ川崎水族館やAOAO SAPPOROで常設展示されており、国内外で高い評価を得ています。
特に絶滅した動物や飼育が難しい生物を“展示”できること、環境負荷を大幅に減らせること、そして動物を苦しめることなく教育ができる点が大きな特長です。
■「本物を見る」とは何か
講演の後半では、河合さんが「デジタル展示が動物展示にもたらす意義」についてお話しいただきました。
「私たちは“本物を見る”ことで野生動物を理解できると信じています。でも、動物園や水族館の展示環境は“人が作った自然”であり、そこにいる動物たちは“人に適応して生きる存在”です。それを“本物”と呼べるでしょうか。」という部分にはハッとした方も多かったのではないでしょうか。
河合先生は、飼育環境で暮らす動物たちが本来の姿や行動を失っていく現状を、シャチやイルカの事例を通して説明しました。
一方、ライトアニマルでは群れで泳ぐ姿、狩りの様子、家族で暮らす様子など、野生でのリアルな生態を再現できることをご説明いただきました。
■命を伝える、新しい教育の形
「生きている動物でなければ命を感じられない」という意見に対して、河合先生は「それは“飼育動物の命”であって、“野生動物の命”ではない」と言われていました。
また、ライトアニマルの展示に触れようと手を伸ばす子どもたちの映像を紹介し、「本物でなくても、心を動かす力はある」と話されました。
■動物の未来を考えるきっかけに
今回の講演は、単にデジタル技術の紹介にとどまらず、動物展示そのものの意味を見つめ直す時間となりました。
ライトアニマルは、これまでの「生きた動物を見せる展示」に新しい選択肢を提示しています。
“命を使わない展示”が、動物の福祉と教育の両立をどう実現できるのか——その可能性を強く感じる回となりました。
その後のディスカッションで印象に残ったのは、こんな言葉でした。
- どちらか一方が正しいという話ではなく、動物園が教育や種の保全の場である以上、「本物」をどう伝えるかが重要であり、そこにデジタル技術をどう活かすかが問われている。
 - リアルとデジタルを組み合わせることで、より深い学びに近づけるようになるはず。
 - 重要なのは“何を見せるか”より、“どう見せるか”。
そこに意味を込めることで、観察が学びに変わる - デジタルは、どこまでも“お客さんのため”に演出できてしまう。
だからこそ、“何を伝えたいのか”という軸を持たなければいけない - 動物園が伝えるべきは“驚き”や“可愛さ”ではなく、動物と人との距離感、そして自然への理解
 - 生体展示とデジタル展示の“住み分け”だけでなく、
交差(クロス)させることで新しい教育の形が生まれる 
■ まとめ:「本物」を伝える新しい手段
ディスカッションを通じて浮かび上がったのは、
「本物」とは“リアルな動物そのもの”ではなく、
“動物や自然の本質を伝える意図と体験”であるという共通認識でした。
そして個々の施設が「何を見せたいか、何を学んでほしいのか」を意識して展示をすることが最も重要なことであるということでした。
デジタルもリアルも、そのための手段であり、
いかに来場者の心に“生き物としてのリアリティ”を届けられるか──。今後の動物園、水族館の在り方を深く考えさせられる内容でした。

