独居高齢者のペット飼育の功罪

独居高齢者によるペット飼育には大きなメリットがある反面、入院などで飼えなくなってしまうという問題が深刻化しています。

令和3年度高齢者白書によれば、65歳以上の独居世帯は年々増え続け、2019年に736万世帯となっています。これは全世帯数(5,178万世帯)の14.2%を占めます。高齢者の犬猫の飼育率については、70代の飼育率は犬が8.9%、猫が7.6%、合わせて16.5%となっています(令和4年度犬猫飼育実態調査)。

単純な掛け算ですが、65歳以上の独居世帯で動物を飼っている世帯は、736万世帯×16.5%=121.4万世帯となります。これは、全世帯の2.3%を占めます。皆さんの周りの50世帯に1世帯は、ペットを飼っている独居高齢者世帯ということになります。

近年の保健所の収容理由の上位は、高齢者の入院や死亡による飼育放棄(多頭飼育崩壊も含む)です。

高齢者がペットをと暮らすことは、精神的・身体的な健康状態を保つ上でよい効果があることは知られています。特に独居高齢者の場合、ペットの存在が生きる支えとなっているということも少なくありません。

ただし、高齢者のペット飼育が健康上良い効果となるためには、適正飼育が前提です。多頭飼育崩壊の状態など、不適切な飼育状態ではむしろ本人の精神的・身体的にマイナスになってしまいます。

独居高齢者がペット飼育の責任を果たすための、3つの準備

ここでは、具体的に独居高齢者がペット飼育をする上で、責任を果たすための3つの準備について記載します。

①後見人の設定

独居高齢者がペット飼育をする上での責任は、自分が飼えなくなった際のペット飼育をどうするかという点を決めておくということが最も重要でしょう。そのためには、後見人の設定が必要です。

ここで言う後見人とは、独居高齢者のペット飼育者の身に何かあった時に、代わりにペットの飼育を引き受けてくれる人や組織のことを言います。

後見人としては、親族が第一候補に挙がりますが、問題になるのは、親族が引き受けてくれない場合です。

親族以外の後見人の例としては、友人知人、お世話になってるペットサロン・ホテル・シッター等、老犬老猫ホーム、保護活動をしているNPOなどが挙げられます。

自分の伝手の中で思い当たる方がいる場合、一度相談してみると良いでしょう。快く引き受けていただける可能性もあります。

そうした人や組織は知らないし、思い当たらないという方は、以下のリストが活用できます。これは、本サイト『ペット後見.jp』を運営している、NPO法人人と動物の共生センターと連携関係にある、ペット後見連携事業者の一覧です。この一覧の中から、お近くの頼れる後見人を探し、相談すると快く対応していただけるでしょう。

当法人が直接ペット後見のサポートを行っているのは、東海3県を中心に岐阜・愛知・三重・石川・滋賀・京都あたりの地域です。ペット後見を行う上では機動性も重要です。すぐに駆け付けられない地域については、緊急対応ができないかもしれないというデメリットも含めて、飼い主さまにお話して、他に方法が見当たらないという場合には、当法人が後見人を請け負わせていただいています。

まずは、後見人の候補者を見つけることからスタートしましょう。

②飼育費用を遺す

後見人の候補となる人や組織を見つけたからと言って、それだけでお願いできるわけではありません。いわずもがな、ペットの飼育にはお金がかかります。お金のことを解決せずに、後見人にペットを託すことはできません。

お金が全くないという場合は別ですが、ある程度貯金がある、持ち家があるという状態であれば、十分にペットの飼育費を遺すということは可能でしょう。

ただし、後見人自身が最後まで飼育するという形にするか、後見人が新しい飼い主を探すという形にするかで、飼育費用は大きく変わってきます。

NPO法人や、ペット関連業者などを後見人にする場合、そうした場所には多くの動物が集まってしまう傾向があります。その場で終生飼育をするよりも、新たな家庭を見つける中継地点の役目を果たした方が良いことが往々にしてあります。動物の方も、やはり、施設にいるよりも、家庭に迎えられた方が、よりQOLが向上します。

一般的な老犬ホームでは、中型犬で月に8万円~15万円程度の費用がかかります。生涯の預かりを依頼すれば3年で300万円~600万円と非常に高額になってしまいます。

一方、新しい飼い主を探すことを前提に、1年の飼育費用を遺す場合、100~200万円と現実的な金額になってきます。

当法人が運営する、ペット後見互助会とものわでは、飼育費用として一律100万円をご用意いただき、新しい飼い主を探すという取り組みを行っています。

まずは、これくらいの金額が必要であることを意識しておく必要がありますね。

③契約を作る

最後に重要なことが、後見人との間でしっかりと契約を結んでおくということです。双方の合意なしに、ペットの飼育を任せることはできません。

遺言で飼育費用を遺し、ペットの飼育を依頼するということは一般的に行われていますが、これも一方的に遺言に書くのは適切ではありません。どのような内容で遺言に記載するか、相手方としっかりと相談した上で作成しなければ、「状況が変わったからペット飼育はできない」という事態になってしまいかねません。

飼育費用を遺すための方法の種類としては、遺言、贈与契約、信託契約などが一般的です。これらの書面を作成し、法的に問題ないか確認し、しっかり履行してもらうためには、専門家のサポートが必要不可欠でしょう。

行政書士、司法書士、弁護士、専門のNPOなどの協力を得て、しっかりとした契約をまとめておくことが大切です。相談先については、以下のリストが参考になりますので、一度確認してみてください。

独居高齢者でも、最期までペット一緒に暮らせる選択肢を

このように、クリアしなければならない課題は少なくありませんが、独居高齢者だからと言って飼育をしてはいけないと制限してしまうことは、誰にもできません。ペットと共に幸せになりたいという気持ちは、基本的人権であり、幸福追求権にあたると思います。

一方で、リスクが高いことは、自他ともに認めることでしょうから、そのリスクをカバーできるような対策を講じることは飼育する以上最低限の責任と言えるでしょう。

後見人を設定し、飼育費用を遺し、契約を作成し、しっかりと責任を果たした上で、ペットを迎えることで、人もペットも幸せになれるのではないでしょうか。